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鹿児島地方裁判所 昭和30年(ワ)294号 判決

原告 田丸ヤス子

被告 前薗甫

主文

被告は、原告に対し金二十万円とこれに対する昭和三十年九月二十八日から完済に至るまで年五分の割合による金員とを支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを六分し、その五を被告の負担とし、その一を原告の負担とする。

この判決は、原告において金八万円の担保を供するときは、かりに執行することができる。

事  実〈省略〉

理由

(当事者間に争のない事実)

被告が、小口運送業を営む者であり、その使用人である、児玉が、昭和三十年四月三日午前十時頃被告の業務として鹿児島県日置郡東市来町長里二千二百五十三番地新村ヒサ方前林田バス停留所附近道路において自動三輪車を運転して進行中、原告に衝突し、傷害を負わせたことは、当事者間に争がない。

(児玉の過失について)

そこで、本件事故が、児玉の過失によつて生じたものであるかについて判断する。成立に争のない甲第四ないし六、八号証によると、児玉は当日自動三輪車を運転して、串木野市から鹿児島市に向う途中、前記場所にさしかかつたのであるが、前方に向うから来るバスが停車して乗客が乗降するのを確認したのに、警笛は鳴らしたが、先を急いでいたこともあつて、その時の速度時速約三十粁のまま、バスの左側(児玉の進行方向に向つて。以下同じ。)約一尺七寸のところを通過しようとしたところ、バスの後方から道路を横断しようとして走り出した原告に衝突して、転倒させ、衝突して始めて原告に気付いて、直ちにブレーキをかけたが、自動三輪車は、衝突地点から約三十九尺一寸進行して停車したものであり、児玉の通過地点における自動三輪車の左側と道路の左側の電柱との距離はなお約四尺七寸あることを認めることができ、右認定に反する証人児玉輝士の証言は措信し難い。右のような場合、児玉としては、停車中のバスの後方から人が飛び出して来ることはよくあることであるから、バスとの間隔をもつとできるだけとつて、さらに速度を減じ、いつでも急停車または方向転換できるようにして、進行する注意義務があるのに、これを怠つたため、本件事故が生じたものであつて、原告の傷害は、児玉の過失によるものといわなければならない。被告は、本件事故は、原告の田丸キクエの原告に対する監督不行届に起因するものであると主張するが、原告がバスの後から走り出したことがキクヱの監督不行届の結果であつたとしても、児玉が前記の注意義務を怠らなければ、本件事故は、これを避けることができたのであるから、児玉に過失がないとすることはできない。

(被告の児玉に対する監督について)

被告は、平素児玉に対し充分監督していたのであるから、被告には損害賠償の義務はないと主張する。証人児玉輝士、山中茂の各証言によると、被告において児玉に対し平素、飲酒して運転しないよう、睡眠を充分とるよう、速度を出し過ぎないよう、車をよく整備するよう注意していたことを認めることができるが、成立に争のない甲第四、五号証によれば、本件事故当時本件自動三輪車は、ブレーキに故障があり、前面ガラスも破損していたことが認められ、さらに、前記認定の事故の状況からみると、被告が児玉の監督に相当の注意をしたとすることはできない。

(慰藉料の額について)

したがつて、被告は、原告に対し原告が本件事故によつて受けた損害を賠償しなくてはならない。そこで、その損害額について考察すると成立に争のない甲第三号証、原告法定代理人田丸金治本人尋問の結果(第一回)、同結果(第二回)によつて昭和三十一年九月十一日撮影の原告の写真であると認められる甲第十四号証によると、本件事故によつて原告は頭蓋底骨折、前頭骨開放骨折、右鎖骨々折、右第二、三肋骨々折等の傷害を受け、三十七日間入院して治療したが、右眉毛から額にかけて約十二糎の痕跡を残していることを認めることができる。したがつて、原告は、右治療中肉体的、精神的苦痛を受け、女性として将来も精神的苦痛を受けることも、当然予想されるところである。しかしながら、原告主張のように原告が、本件事故の傷害によつて、一日に数回頭蓋骨部に疼痛をおぼえ、小学校の学力が極めて低劣で、学業成績が級中最下位であるということは、これを認めるに足る証拠がない。そこで、右事情に、前記認定の事故の状況、原告の年令、原告法定代理人田丸金治の証言によつて認められる。原、被告方の財産状況、被告が小口運送業を営むものであること、被告が原告の治療費金一万七千六百円を支払つたこと、等を考慮して、前記精神上の損害に対する慰藉料の額は、金二十万円を相当と認める。

(過失相殺について)

また、被告は、原告は幼少で充分監督しなければならないのに、当日原告を連れていた母田丸キクヱの監督が足りなかつたもので、原告の保護者に過失があつたものであるから、過失相殺によつて損害賠償が考慮されなければならないと主張するが、かりに、保護者に過失があつたとしても、被保護者である被害者からの損害賠償の請求においては、保護者の過失は考慮すべきではないから、右主張は、理由がない。

(結論)

そこで、原告の本訴請求は、被告に対し右慰藉料金二十万円とこれに対する請求後の本件訴状送達の日の翌日である昭和三十年九月二十八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金との支払を求める限度において、理由があるから、これを認容し、その余は、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢頭直哉)

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